『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

【特集】「せんせい」になったあなたへ2024

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ニュース

『教員の地位に関する勧告(1966年および1997年)の不遵守について、教員団体より提出受理された申立てに関する中間報告』

 第294回ILO理事会(05年11月3~18日)は、全教の「申し立て」に関するCEART「中間報告」を了承しました。CEART第1次勧告後に提出された全教と文部科学省からの追加情報を踏まえた報告です。


経緯

1.この申し立ての詳細は、2003年に開催された第8回共同委員会の報告に記述されている。
 
2.その報告の中で共同委員会は、詳細な事実関係に関して相当な見解の相違がある全日本教職員組合(全教)と教育・文化・スポーツ・科学技術省(以下、「文部科学省」)間に対立が存在していることに留意した。※ 
 
※ 第8回教員の地位勧告の適用に関するI LO・ユネスコ共同専門家委員会、パリ、20003年9月15~19日(添付資料2、A、「全日本教職員組合(全教)より受理された申し立て」(CEART8/2003/11) 
 
3.しかしながら、共同委員会は当事者間に生じた問題の中に2つの中心的問題が存在すると考えた。それらは、日本において展開されている新しい制度に起因するものであった。第1は、指導力不足とされる教員に対応するための制度であった。第2は、優れた業績をあげている教員に対して、特別な昇給・昇格や金銭的報奨でむくいるための制度であった。
 
4.その報告の中で、共同委員会は、問題にされている両制度が、いかなる見地から見ても、教員の地位勧告により意図されているような全教と文部科学省あるいは実際の雇用当局間の適切な協議がなされずに実施されてきたことに留意した。
  
5.教員の指導力の問題に関して、共同委員会は提起された新しい制度の本質的な要素に留意し、その報告の中で言及されているさまざまな点で、それが第45項、第46項、第50項および第64項を含めて、「勧告」により提起されている水準を満たすものではないとの見解を表明した。それらは地方行政の管理運営事項であり、「勧告」の適用対象外であるとする日本政府の主張は認めがたいものである。上記の理由により、共同委員会は、「勧告」の諾条項に合致するように制度の見直しを行うよう勧告した。
 
6.さらに日本政府は、勤務評定制度も地方行政の管理運営事項であり、「勧告」の適用対象外であると主張しているが、共同委員会は、問題の勤務評定制度が明確に「勧告」の第64項、および第124項にもとづいて策定されていないと考えた。委員会は、特に適切な事前協議のプロセスの欠如、主観的評価、評価プロセスにおける透明性と公開性の欠如、そして再審査や不服申立ての明確な権利が存在しないことに注意を喚起した。
 
7.このような経緯を背景として、共同委員会は、政府と全教が関連する諸問題に建設的な対応を行うための対話を行うことを勧告した。 

その後の展開

8.2003年報告以降、共同委員会は、全教(2004年5月と2005年1月)と日本政府を代表する文部科学省(2005年5月)の双方から文書を受け取った。
 
9.それらの文書から、2004年3月31日に文部科学省と全教代表の会談が行われ、そこで教員の指導力と教員評価の2つの問題に関する意見交換が行われたことがわかる。しかしながら両当事者が、このはじめての重要なイニシアテイヴをとったことは評価されるが、そのことが関連する制度に実質的な変化をもたらすにいたらなかったことが示唆されている。今ではそれらの制度が全国的に広く運用されているということである。
 
10.伝えられた文書によると、全教中央本部と地方組織の役員は、共同委員会の上述の検討結果と勧告、そして問題となっている制度が運用されていることに関して、数県の県教育長との懇談を行った。全教は、いくつかの県では、「指導力不足」について窓意的と思われる判断基準を手直しするか削除する、あるいはそのプロセスをより透明性のあるものにし、教員の意見を付すなどの措置がとられたが、その他のところでは、恣意的な制度運用が行われていると報告している。実際、指導力不足の定義や評価制度の適用において、県ごとに相当のバラツキがあり、平等な取り扱い上、問題をおこしているので、文部科学省は、すべての県教育委員会が共同委員会の勧告を効果的に適用できるような措置をとるべきである。さらに、勧告の関連条項である第124項と共同委員会の勧告に反して、勤務評価制度について事前に検討し、実施にうつすために1県を除くその他の県によりとられた措置は、教員の意見を聴取することもなく実施された。
 
11.文部科学省は、指導力が不足していると認定されたひとりの教員が、勧告により必要とされている適切なプロセスが欠けていたとして訴訟した結果に、共同委員会の注意を喚起した。この主張は、再教育を命じられたことは、当該の教員の地位あるいは給与の変更をもたらしていず、違法な手続きだとはみとめられないという法的理由により却下された。共同委員会に提出された、この最終決定についての要約は、以下のとおりである。
 さらに、教員はその資質や能力についての評定にたいして反論する機会が欠けていることを不満に思うかもしれないが、評定に異論をとなえる制度は、当該事案の性格により策定されるべきである。このケースでは、再教育の命令はただちに違法な手続きであるとは考えられない。
 
12.文部科学省は以下のように主張している。
 この行政訴訟の結果は、日本の司法当局が、東京都教育委員会により行われている指導力不足教員に対する人事管理制度は、しかるべきプロセスに沿って適切に実施されていることを認めたことを示しており、そのことは又、文部科学省がI LOに報告した指導力不足教員に対する日本の人事管理制度の適切性を証明するものである。

検討結果

13.共同委員会は、関連する引用文についての上記の翻訳が、英語の表現形式で、原文の要旨を正確に反映したものであるとしておく。しかしながら、最高裁判所のこの決定について文部科学省より行われた解釈を受け入れることはできない。この決定は、勧告は雇用契約の両当事者に直接的な法的拘束力をあたえるものではないとした上で、職務の一環として研修をうける必要は、関連する勤務契約のもとでの法的権利の変更をもたらさないので、したがって違法な手続きではないことを認めたに過ぎない。
 
14.最高裁の決定は、実際には、――勧告の第50項と第64項にしたがって――共同委員会により以前に指摘された状況や評定について知らされ、それに異議をとなえる教員のためのしかるべき制度が必要であること(あるいはすくなくとも、それが望ましいこと)を認めていることは明らかである。
 
15.共同委員会は、日本政府が、実際に、問題となっている制度は管理運営事項であり、勧告の適用対象外であるとするスタンスをとりつづけていることに留意する。共同委員会は、以前の報告ですでに表明された理由により、そのような主張を受け入れることはできない。共同委員会によりこれまでに指摘されている勧告の諸条項は、きわめて明快、明白なものである。
 
16.さらに、共同委員会は、日本における状況についての委員会のこの前の所見は、法的権利についての細かい問題に対するものではなく、教員に関して認められている国際基準を遵守することが望ましいことと、教育制度の発展には効果的で適切な対話が重要であることに注意を促したものであることを、再度力説する。
 
17.共同委員会は、最新の政府回答が、勤務評定制度の策定と実施に関する実質的な問題のほとんどが未解決のまま残されている、という全教の主張に応えたものになっていないことに留意する。
 
18.共同委員会は、勧告は、両当事者が協同の精神で協議するというプロセスに向って歩み寄るという見地から考察されていることを強調するものである。日本のような地方分権制度のもとでは、しかるべき行政手続きや方法が実際に策定され、実施されているレベルで、そのようなプロセスが行われることが必要である。すべての教員に対する適切な手続きや方法が一貫した方法で採用され、適用される手段についてのガイダンスの提供に文部科学省が関与することが、このプロセスを容易ならしめることは間違いない。上述の第10項で指摘されているように、県レベルで問題を解決するのに若干の小さな進捗がみられてはいるが、まだまだ多くのことがそのままにされているのは明白である。共同委員会は、勧告が両当事者間の根本問題を管理当局から取り除くためにつくられたものではないが、それでも、勧告(特に第49項と第124項)の諸条項に沿って関連する行政上のプロセスにおいて、また評価結果を処理するための方法をも策定することに、教員団体が関与させられるべきことを意図したものであると考える。現在まで、そのようなことは、ごく限られた程度しか行われていないように見える。

勧告

19.共同委員会は、I LO理事会とユネスコ執行委員会が以下のことを行うよう勧告する。
(a)上述の状況に留意すること。
(b)上記の検討結果を日本政府と全教に知らせ、第8回共同委員会報告で指摘された諸問題を処理し解決することをめざして、双方が全国的なレベルと特に県レベルで、これまでに誠実に継続的にとりくまれているような適切な対話をさらに進めるよう促すこと。
(c)政府と全教が、これらの諾問題に関するその後の展開についての情報を、共同委員会に常に提供すること、またこれらの情報が定められた手続きにしたがって適切に検討されることを要求すること。 
 
(全教訳)

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