『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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「2016年度文科省概算要求」について交渉

全教は8月20日、「2016年度政府予算にかかわる文科省概算要求」についての交渉を行いました。



 8月20日(木)に、全教の文部科学省に対する「2016年度政府予算にかかわる文科省概算要求」についての交渉が行われました。全教からは蟹沢昭三委員長以下7人の役員が参加しました。文科省からは矢野和彦初中局財務課長、松下大海財政課給与企画係長、廣石孝財務課定数係長、越政樹財務課高校修学支援室専門官が出席しました。



 交渉の冒頭、全教の蟹沢委員長があいさつをし、学校教育における問題は、子どもたちの困難にどう向き合うかであり、背景には子どもたちの貧困と格差の拡大のなかで苦しむ保護者の問題があることを指摘しました。また他方では、長時間過密労働の中で疲弊する教職員をどう支え、やりがいをサポートしていくかという問題もあるという現状を訴え、限られた予算の中で、教育を前進させるために、どこにどう配分していくかが極めて重要とし、全教の具体的な提案への誠実な検討と対応を要望しました。

 この後、以下の全教の重点要求に対して文科省としての回答が矢野財務課長から行われました。

① 国の責任で30人学級を実現すること。2016年度の政府予算において、小・中・高のすべての学年での35人学級を実現させるために、教職員定数改善の措置を講じること。
② 高等学校等就学支援金・「奨学のための給付金」について、個人情報の保護を徹底し、申請手続きを簡略化するとともに、受給資格のある生徒に対して確実に支給されるよう配慮すること。また、申請に伴う教職員の多忙化を解消するため、事務職員の定数増を図ること。
③ 恒常化している教職員の長時間過密労働を是正し、子どもと向き合う時間を確保する教職員定数の抜本的改善を基本に、具体的な措置を講じること。また、自主的研修のように時間計測が困難なものの見合いとしての定率の給与措置を確保したうえで、測定可能な超過勤務に対し労基法37条にもとづく割増の時間外手当を支給できるよう法改正を行うこと。
④ 「雇用と年金の確実な接続」を図るため、政府・文科省の責任において、希望者全員を再任用するために標準法の枠外で定数を確保するなど、各都道府県・政令市の実情をふまえた必要な予算措置を行うこと。とりわけ、高齢期雇用を保障するために、働き続けることができる環境整備を図るとともに、学校の教育力を維持し、教職員の構成年齢を均質化するために、国の責任で新規採用者数を確保すること。

 重点要求に対する文科省の回答は、以下の通りです。
① 教員定数・30人学級の問題は、学校教育の根幹で重要。定員増は、本腰でとりくんでいく。30人学級、長時間過密労働など、20、30年前とは違う状況がある。学校現場を取り巻く課題は、社会の鏡ともいえる。時代に対応した新しい教育にもとりくんでいかなければならない。教育環境の充実が重要で、学校現場の課題すなわち「いじめ」「特別支援教育」などについて細かい対応が必要。一方で社会の情勢も変わってきているので、一斉に対面式で一方的に教えるものではなく、主体的共同的な学びを支援していく、指導体制の充実、新たな学びとしてアクティブラーニングなどが重要であることをふまえ、教職員定数の戦略的充実が重要と考える。定数改善については、全教はもちろん、知事会、市長会など多数から拡充の要望があり最終調整段階であり、しっかと対応していきたい。

② 「高校生の就学支援金」「奨学のための給付金」の問題について、個人情報の保護、手続きの簡略化、申請に伴う教職員の多忙化の解消の問題については改善をしてきたところである。個人情報の保護についてのこの制度が始まってから、指摘があり、特段の配慮をもって事務を行うよう重ねて都道府県に要請してきた。例えば封をして封筒で提出していただくなど。手続きの簡略化についても省令改正を行い、今年度からチェックボックス方式にし、改善をはかった。申請漏れの防止については、制度の周知に努め、受給対象となる生徒が制度の不知により、対象から漏れることのないよう都道府県において生徒全員に申請の意思を確認し、申請のための書類を提出していただくように都道府県教委が適切な対応をしていると考えている。

③ 教員給与については、超過勤務等紆余曲折あって『教職調整額』というやり方で一応の結論を見たが、当時と比べ、超過勤務が増えているという実態をみて、これは単に給与の問題ではなく、「学校の組織」「勤務時間管理」「時間外における勤務のあり方」すべてに影響するもので、今後の学校経営の改善、学校の教育力、組織力を進めていくとりくみ全体の中で、部分的な手直しでなく、抜本的な改善が必要な重要な課題として認識している。これまでの先輩方も課題としていた。そう簡単にはいかないと思うが改善策があるかどうか検討していきたい。

④ 雇用と年金の確実な接続について、フルタイム再任用職員については、一般の地方公務員も定数内でカウントしているところ。教職員についても均衡をふまえる必要がある。新規採用については、学校における年齢別構成の適正化を図る観点から、若手教職員の安定的計画的な確保に努めることが必要であると認識。標準定数の範囲内における臨時的任用教職員については、計画的に正規任用の教職員の配置枠に切り替えるなど、必要な処置を講じるよう各都道府県に対して依頼してきた。文科省としては都道府県の実情に応じた適切な処置をしてまいりたい。

 文科省の回答に対し、小畑書記長が「2月に首相が35人学級の前進について国会でも言及しているがそれについてはどう考えているか」と重ねて要求しました。
 また、中村副委員長・教文局長からは、「現在、35人学級については、各都道府県の独自措置として前進してきている。文科省としては13年度14年度において前進がない。現在、10県程度で全学年実施しているが、各都道府県の教育行政当局との話の中では、国が措置してくれなければこれ以上の前進は難しいと述べているところも多い。小1小2のみのところ、中3まで全学年実施のところ、高校まで広げつつある県もあるが、これは、生まれ住む地域で教育条件に大きなひらきがあるということだ。なにより国が措置すべきではないか。都道府県の財政力によって格差が生まれている中で格差解消の観点から、国が計画的な前進を打ち出せば各県もさらにふみだせる。いじめなどの課題に関わっても重要で、大津のいじめ事件の第三者委員会の提言でも少人数学級化が大事だと述べている。財政審では一人当たりの財政措置は多いと述べているが、1クラスあたりではOECD諸国に比べて条件が低い。」と述べ、再度定数改善の計画について強く要求しました。

 これに対し、矢野財政課長は、「我々も異論はない。財政審の話もあったが、学校現場の実情は常識になっている。しかし、残念なことに日本政府・国民の中では常識になっていない。国民に理解が得られるように努力することが必要。そこが問題。実態から行くと35人下学級の全面的打ち出しは時期尚早」と答え、35人学級の前進に後ろ向きな姿勢を示しました。
これに対し、今谷副委員長は「計画の打ち出しが重要。とくに学校現場に非正規の教員が大量に配置をされており、病休や産休の先生に代替がつかず、この年度初めは学級担任が配置できない実態もある。文科省として計画的な定数改善の問題をうけて、この概算要求にきちんと計画を打ち出していただきたい。」と述べ、小畑書記長から「署名等から父母の理解は進んでいる。」とし教職員定数改善計画の策定を再度求めました。

 就学支援金について、中村教文局長からは「この間の改善のとりくみには感謝している。しかし根本の問題は所得制限を設けているところ。(ある県の)調査では、滞納者の全員が910万円以下だった。つまり申請していれば滞納せずに済んだ。再申請で免除になったが、制度が周知されていない。所得制限ではなく、本来全員の無償化に戻すべきである。また事務職員の負担の問題もある。再申請など手続きで多忙。一部の府県では民間委託しているところもあるが、個人情報の問題もある」として「高校無償化」の復活を強く求めました。

 越財政課高校就学支援室専門官から補足として「限られた財源の中で負担できる方には負担してもらい、その分私立の支援を手厚くしようと考えている。事例については、新しい制度であり、一層の周知と、手続き等ではきめ細やかな対応をお願いしたい。事務負担の軽減については学校と都道府県との情報交換で効率化を求めていきたい。また今後マイナンバーも活用可能になり、負担軽減になる。」と述べました。
 小畑書記長は「私たちは公立も私学も無償にということを要求している。権利としての教育をすべての子どもに保障する必要がある。どの子にもゆきとどいた教育をという意味で予算の確保をしてほしいという要求だ」と訴えました。

 続いて、教職員の長時間過密労働について、米田副委員長が「実態や解決の重要性についてはこの間の認識は文科省も我々も同じだ。『チーム学校』では業務分類をしているが、さまざまな調査で、本来業務が勤務時間内に終わらないことが明白な中、定数改善等抜きに単なる業務改善では解決しない。勤務時間内に成績処理や生徒への対応、意思疎通を図る教職員の会議ができるようにしてほしいというのが現場の教職員の切実な声であり、これこそが給特法にかなった要求である。その願いを手にとれるよう条件整備のための努力をお願いしたい。私たちが求める給特法の改正も、単に勤務時間外手当が支払われれば事足りるという問題ではない。教職員の長時間過密労働の問題について、改善に向け教職員組合と文科省との率直な意見交換の場を設けてほしい」と訴えました。
 文科省側は、「長時間過密労働の問題の解決のための定数改善の考え方は同じ。ただ定数改善だけでは大きな変化をもとめるのは難しい」と答えました。

 小畑書記長から「雇用と年金の確実な接続の問題について、短時間再任用もフルタイム再任用も定数外にしてほしいというのが現場の声。今年度から退職者の年金支給年齢が62歳となるなど無年金期間が伸びていく。希望者全員の再任用の措置をお願いしたい」と訴えました。
 それに対して、廣石財務課定数企画係長から「短時間再任用を定数外にしても、条例定数を減らして確保することになっている。均衡からいってこれを理由に定数の改善は難しい。今の非正規任用を正規に切り替えていくことで採用に支障が出ないようにする」と述べました。これに対して全教から「それは非正規の首を切ってでも再任用雇用の確保に充てるということになる。そのようなことを文科省が口にしてはならない」と厳しく批判ました。

 最後に、「全教が提出した要求書の項目を見ていただき、ぜひ概算要求のなかにとりいれていってほしい」と交渉をまとめました。

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