『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【声明】『実情調査を踏まえたCEART勧告について』

                     2008年12月17日 全日本教職員組合 中央執行委員会

1.ILO事務局から08年12月8日付の手紙とともに、第303回ILO理事会(11月6~21日)で承認されたILO・ユネスコの共同専門家委員会(以下、CEART)の勧告を含む中間報告書(第4次勧告)が全教へ届けられました。これは、4月末に行われたCEART調査団の来日調査を踏まえたもので、その調査団報告書も添付されていました。今回は、文科省と全教だけでなく、CEART調査団のヒアリングに参加した日教組などにも送付されました。この点から見ても、CEART勧告は、日本の教職員組合運動の共有財産と言えます。

 全教の申し立てを受けて、CEARTはこれまでに3回、日本における「指導力不足」教員政策や新教職員評価制度の導入において、『教員の地位勧告(1966年)』(以下、『66年勧告』)が遵守されていないとして、その諸規定に合致するよう文科省に対し求めてきました。しかし改善がはかばかしくないとして、日本政府の了承を得て、調査団の派遣に踏み切りました。この調査団は、すべての当事者に受け入れられる「問題の解決のための提案」を行うことを使命としていました。
 今回のCEART勧告は、4月の実情調査で入手した豊富な情報をもとに、この間の文科省の部分的改善措置を評価しつつも、日本の教育行政が『66年勧告』から逸脱していることを明快に批判し、勧告の適用を促進・監視するCEARTの存在感を内外に示しました。 
 
2.今回の第4次勧告は、調査団が「直接接触」で得た証拠資料を基礎に、具体的な改善内容に踏み込む意欲的な内容で、私たちの期待に応える画期的なものでした。その特徴を、以下4点にまとめることができます。
 
 第1に、実情調査を踏まえ、具体的に詳細な改善内容を勧告したことです。これまでは、「CEARTは現時点で詳細な事実関係に関する争いの解決を図ることを提起しない。むしろまず勧告の原則に関する重要な問題をとりあげてCEARTは検討したい」(第1次勧告、03年12月)として、『66年勧告』の原則に基づき、透明性、公正性、客観性など手続き問題を中心に検討結果を述べ、日本政府と全教に「建設的な対応」(1次勧告)、「適切な対話」(2次勧告)を求めて勧告していました。
 ところが今回は、調査事実をもとに勧告部分においても、「教員の自由、創意、責任」の意義が強調され、「指導力不足」教員政策と業績評価制度だけでなく、社会的対話である「交渉と協議」に関しても見直し改善に向けて、次の具体的な内容を盛り込みました。
 
○ 「指導力不足」教員に関する教員評価制度への非好意的(poor)な見方を受け止め、措置を講じるべきであると勧告する。(33項)
 
○ 給与と関係する教員評価制度を根本的に再検討すべきであると勧告する。(37項)
 
○ 政府が教育団体との間で問題の性質に応じておこなわれるべき協議や交渉に対する方策を、1966年勧告の規定に即して再考するべきであると勧告する。(40項)
 
 第2に、これまでは、ILO理事会とユネスコ執行委員会に対して勧告していましたが、今回は対象が2重構造となっており、CEARTは①ILO理事会・ユネスコ執行委員会と②文科省・地方教育委員会に対し勧告していることです。都道府県教委に直接勧告したことは、勧告は日本政府に対するものとの文科省見解を明確に斥け、都道府県レベルから教育政策を前進させる可能性を切り開いた積極的なものです。
 
 第3に、勧告したにもかかわらず改善がすすまない原因は、「交渉と協議」問題にあると判断し、「協議過程はせいぜい形式的なもの」(26項)、「協調精神をもって教員団体との協議に臨んでいたとはいえない」(28項)と断定しました。そして文科省・教育委員会に対し、教員評価制度などを「管理運営事項」扱いとせず(42項)、有意義な協議・交渉を行うことの重要性を指摘し、法改正を含め(43項)教職員組合政策の抜本的な転換を求めました。
 
 第4に、CEARTからの具体的支援の表明です。私たちは、国内で自主的に解決したいと考えていますが、勧告が「進展と困難を通知し、その困難の解決に役立つと考えられる事項について…CEARTの専門的・政策的助言」(43項)に言及しており、ILO事務局が「早期に」追加情報を要請していることに留意するものです。
 
3.『66年勧告』・CEART勧告は、「強い説得的効果」と「倫理的な権威」を持っており、各国で遵守されることは当然とされるべきものです。とりわけ、今回の調査は、文科省がCEARTに対し、全教の主張だけを聞いて判断せず、「各教育委員会の取組状況等について直接事情を聴取していただきたい」と要請したことにより実現し、調査方法も合意して受け入れました。
 ところが審議されたILO理事会で日本政府代表は、「日本の状況、法律及び政府の講じてきた施策に関する理解が不十分であることに落胆している。中間報告書の記述と勧告の一部を受け入れることは困難である。…『教員の地位勧告』の精神を尊重しつつ、我が国の現状と法律に適した方法で当該政策を一層推進する所存である」と述べました。しかしながら、CEARTは、日本の法制度を熟知した上で『66年勧告』の遵守を求めており、法制度を理由に勧告を拒むことはできません。現行の公務員法が『66年勧告』遵守の障害となるならば、必要な法改正をしなさいと勧告しているわけです。CEARTが、協調の精神による「協議と交渉」がなければ、当事者間の見解が分かれ、「教育の有意味性と質の向上とを図る教育改革が成功する可能性を損なう」(32項)と述べていることに説得力があります。
 今回、中間報告として出されたのは、「問題をよりタイムリーに解決することに役立てる」(4項)ためです。今後の日本における改善の取り組みは、世界から注視されており、文科省・都道府県教委の誠実で速やかな対応を要請するものです。 
 
4.私たちは政府(内閣府、総務省、厚生労働省)・文科省に対し、教育行政におけるCEART勧告の遵守を求め、次の事項を申し入れることをはじめ、とりくみを強化する決意です。
 
① 『66年勧告』・CEART勧告を尊重して、教育行政をすすめること。
 
② CEART勧告およびCEART調査団報告書の政府・文科省訳を公表すること。
 
③ すべての教育委員会に対し、「教員評価制度の手続き的保障を改善するために県教育委員会がとった措置へのCEARTの讃辞を伝え」(43項)、CEART勧告を周知徹底すること。その際、文科省だけでなく、都道府県教委を直接の対象としていることを指摘すること。
 
④ CEART勧告を踏まえ、「協調の精神」による「教育当局と教員団体との協議や意見交換のための確立された機構」を実現するため、すべての教職員組合代表が参加する検討の場を設けること。
 
⑤ 公務員制度改革における「自律的な労使関係制度の措置」具体化にあたっては、CEART勧告の水準を確保すること。

                                              以上
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