『クレスコ』

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〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【談話】『全国一斉学力テストの中止をあらためて強く求めます――2008年度「全国一斉学力テスト」の結果公表にあたって』

                   2008年 8月29日 全日本教職員組合 教文局長 山口隆

 文部科学省は8月29日、「平成20年度全国学力・学習状況調査」(以下、「全国一斉学力テスト」)の結果を公表しました。
 私たちは、「全国一斉学力テスト」は、競争と格差づくりをすすめるものであり、一貫して中止を求めてきましたが、今回の結果公表にあたり、いくつかの重大な問題点を指摘し、あらためて中止を強く求めるものです。

 第1は、全国の小学校6年生、中学校3年生の全員を対象に調査する必要はまったくないということです。
 調査結果では、「授業で自分の考えを発表する機会があると思う児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」「問題の解き方が分からないとき、あきらめずにいろいろな方法を考える児童生徒の方が正答率が高い」「テストで間違えた問題について、間違えたところを後で勉強している児童生徒の方が正答率が高い」などと述べています。このような結果は、日々子どもたちと接している現場教師の日常の実感からすぐわかることです。どうしても調査をするというのならば、抽出調査で十分であり、巨額の費用をかけ、全国210万人の子どもを動員して調査しなければならない必然性など、まったくありません。
 
 第2は、文部科学省の政策に誘導しようとする意図を強くもったものであるということです。
 調査結果では、小学校の国語、算数、中学校の国語、数学ともに、「知識、技能を活用する力に課題がある」と結論付けています。活用力をみるとされているB問題は、子どもたちが学習もしていないことまで問題に出して解かせるものであり、正答率が下がるのはあたりまえのことです。これをとりたてて「活用力に問題あり」としているのは、改訂学習指導要領を正当化し、学習指導要領路線に子どもたちを流し込もうとするものです。改訂学習指導要領は、学力の要素を、 ①基礎・基本、②活用力、③態度、と示しました。文部科学省が特定の学力観を決めて押しつけることそのものが大きな問題ですが、改訂学習指導要領では、「活用力」を口実に、子どもたちに大変難しい学習内容を求め、つめこみを強化しようとしています。調査結果の結論は、「活用力に問題がある。だから学習指導要領で活用力を」という流れに誘導しようとするものであり、学習内容のつめこみを正当化するという大きな問題を持つものです。
 また、調査結果は、「PTAや地域の人が学校の諸活動に参加してくれると回答している学校の方が正答率が高い」としています。PTAや地域の人々が学校教育活動に参加すること自体は、重要なことであり、私たちもかねてから、参加と共同の学校づくりを提起してきているところです。しかし、文部科学省は、父母の学校参加とは似て非なる「学校支援地域本部」という新たな事業を立ち上げています。この「事業」は、「学校支援」を口実とした外部団体の学校教育への介入によって教育の公共性を掘り崩すとともに、本来、力をあわせて教育活動にとりくむべき父母を、単なる学校の「応援団」としてしまうという重大な問題を持つものです。今回の調査結果であえて地域の人々の学校参加に言及していることは、「全国一斉学力テスト」の結果を利用して、「学校支援地域本部」事業への誘導を行おうとする意図があるのではないかと危惧されます。
 
 以上の重大な問題とともに、調査結果から、経済的格差が教育格差をつくっていることも明らかになりました。調査結果は、「就学援助を受けている児童生徒の割合が高い学校の方が、その割合が低い学校よりも平均正答率が低い傾向が見られる」と述べています。調査結果=学力と即断するわけにはいきませんが、調査結果が学力の一部を反映していることは事実です。貧困と格差拡大が教育格差を生み出す重大な要因となっていることは、明らかではないでしょうか。文部科学省は、経済的に困難な家庭に対する直接の援助をはじめ、子どもたちが安心して学習できるための手厚い手立てをとることが求められます。概算要求で、子どもたちを貧困から守る予算要求がされることを強く求めるものです。
 
 最後に、今回、問題が大変難しく、時間内に解くことができなかった子どもたちが激増していることが大きな特徴です。小学校国語のA問題では、時間が足りなかったと答えている子どもたちは、昨年度の12・6%から43・6%に、算数のA問題では、9・8%から20・1%へと激増しています。なかなか解けない難しい問題を無理やりやらされている子どもの気持ちを思うと、胸が痛みます。
 文部科学省は、今年もまた、各都道府県別の正答率を公表しました。「全国一斉学力テスト」によってつくり出された格差で、「○○県が1位」などと、さらに競争をあおる風潮が強化されることが大いに懸念されます。
 子どもを苦しめ、格差づくりと競争強化をいっそうすすめる「全国一斉学力テスト」は、百害あって一利ないものです。私たちは、あらためて「全国一斉学力テスト」の中止を強く求めるものです。

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