『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【声明】『2008年人事院勧告について』

2008年 8月11日 全日本教職員組合 中央執行委員会

1.人事院は8月11日、一般職国家公務員の給与等の勧告と報告を行いました。
 賃金に関する勧告内容は、官民較差は「0・04%、136円」で民間とほぼ均衡しているとして月例給の改善を見送り、一時金も据置きとする一方で、本府省業務調整手当の新設を強行しました。これは、原油の投機的な値上がりの影響で消費者物価指数は前年比で2・0%もの上昇を示し、生活が苦しさを増しているもとで、全国の教職員が切実に期待した賃金改善の要求を踏みにじりながら、霞ヶ関の一部公務員だけを厚遇し、公務員賃金の地方格差をさらに拡大するものです。

 この間、私たちは、人事院に対して、本府省業務調整手当の新設に反対しながら、生計費原則に立ち、急激な生活悪化を招いている物価上昇の要素を勧告に反映すべきと再三申し入れてきました。たたかいをとおして、教職員をはじめ地方公務員全体に大きな影響を及ぼしかねなかった持ち家の住居手当の廃止を見送らせたのは成果ですが、民間に比較して明らかに低水準にある初任給水準すら改善を見送り、不当な「ベアゼロ」勧告を行ったことに対して強く抗議するものです。総じて、勧告は「公務員総人件費抑制」という政府の基本方針に忠実に従い、「骨太の方針2008」における社会保障費2200億円削減、消費税増税へと突きすすむ地ならしの役割を果たしているといわざるをえません。
 
2.焦点となっていた非常勤職員の賃金および労働条件について、人事院ははじめてガイドラインを示し、今後の処遇改善をすすめていく上での第一歩となりました。これは、貧困と格差拡大の是正を求める運動の反映ですが、その水準は各俸給表の初号俸を基準とする低いものであり、「官製ワーキングプア」の解消をめざす立場から真に均等待遇水準まで改善すべきです。今後、今回のガイドラインが、学校現場で働く臨時・非常勤教職員の処遇を引き上げるために、地方においても積極的にその改善点が具体化されるよう、文科省が適切な指導を行うよう強く要求するものです。
 また、ガソリンや灯油等の急騰のなかで、交通用具使用者の通勤手当を改善しなかったことや、切実な要求になっている寒冷地手当の引き上げを検討しなかったこと、持ち家の住居手当廃止の来年度検討の表明などは、到底認めることができないものです。
 
3.私たちが強く要求してきた公務の所定内勤務時間の短縮については、04年度からの5年間の調査結果から「1日7時間45分、週38時間45分」とすることを勧告しました。学校現場における教職員の恒常化している長時間過密労働は、急増する精神性疾患の温床ともなっており、その是正は喫緊の課題です。今回の勧告が、年間総労働時間・拘束時間の短縮として速やかに具体化され、教職員の長時間過密労働の是正に着実につながるよう、私たちは引き続き奮闘するものです。
 
4.全教は、公務労組連絡会に結集し、夏季闘争をたたかいました。すべての労働者の賃金底上げをめざす最賃引上げ闘争を一体にしてすすめながら、人事院に対しては、昨年を上回る「賃金改善署名」6万5686筆を集約し、中央行動をはじめとする諸行動にも積極的に参加し奮闘しました。
 08春闘では、厳しい経済情勢のもとでも、労働者・国民の要求を反映し、国民春闘共闘の集計で2・08%、日本経団連調べでも1・66%の賃上げがかちとられました。最低賃金引き上げの課題でも「生活保護との整合性」をめぐる攻防という新たな段階に入り、高卒初任給や最低生計費水準が議論され、不十分ながら2年連続の2桁引上げを実現しています。
 「人勧、最賃、底上げ・均等待遇」を一体としてたたかってきた私たちのとりくみの到達点が、現在の局面を切り開きつつあることに確信を持つものですが、本日の勧告が、08春闘の到達点からみて意図的とも思える「きわめて微小な官民較差」を理由に「ベアゼロ」勧告を行ったことは、この間高まってきた最低賃金引き上げの動きに水を差し、09春闘にも否定的影響を与えることは明らかです。
 私たちは、あらためて政府に対し、生計費にもとづく賃金改善を行うことで、公務員労働者はもちろんのこと、すべての労働者の賃金底上げに積極的な役割を果たすことを強く要求し、その実現のために民間との共同のたたかいをさらにすすめていくものです。
 
5.今後、政府は、地方に対して国家公務員に準じた措置とともに、「地域の民間給与の更なる反映」を強く指導していくことが予想されます。勧告における「ベアゼロ」が、地方においては賃金引下げ圧力として強く影響することが危惧されます。疲弊させられている地域経済における人事委員会勧告の社会的影響を広く訴え、人勧制度を否定する独自カット問題をはじめ、地域格差拡大に反対する運動をさらに強化することが求められています。
 
6.教員給与については、財務省を中心に攻撃が強められ、2・76%削減が決まっているもとで、今年度は、「義務教育等教員特別手当」の削減が政府予算に盛り込まれています。学校教育法で「置くことができる」とされた「副校長」や「主幹教諭」「指導教諭」など、新たな「職」の設置提案も全国的に広がりつつあります。また、文科省は、現在は一律4%の支給となっている教職調整額に差別支給を導入する検討を継続しています。さらに、国家公務員の人事評価制度の試行にあたって評価結果の処遇への活用の措置案概要について報告で触れていることが、新たな教職員評価制度による評価結果を給与にリンクしようという動きを強める危険性があります。
 こうした攻撃が教職員を分断し、相互の協力・共同体制を壊していくことは、教育にとっての大きな困難をもたらすことは明らかです。厚労省が「労働経済の分析(平成20年度)」において「長期雇用慣行や年功型賃金制度などに対する評価」が見直されている一方で、「業績・成果主義的な賃金制度は(評価の納得性が確保されておらず)必ずしも成功していない」と指摘しているのは重要なことです。
 全教は、評価による差別賃金制度に反対し、仕事に誇りが持てる、教員の専門性にふさわしい、かつ労働実態に見合った賃金水準の確保を要求します。そのためには、専門職として不可欠な自主的研修など、時間計測が困難なものの見合いとしての定率の給与措置を確保したうえで、測定可能な超過勤務に対して労基法 37条にもとづく割増の時間外勤務手当を支給できる制度の構築こそ必要です。
 
7.いま日本では、貧困と格差の広がりの中で、国民犠牲の「構造改革」路線への怒りがいたるところで噴出し、政治の流れを変える大きな力になっています。派遣労働の非人間的な実態の告発や、全国の漁民の決起は、憲法原則に立つ政治を国民が求めている証左でもあります。大企業だけが繁栄して、労働者の賃金は減り続け、労働時間が増え続けるという異常な事態に対して、国民的な共同を広げることで勝利できる展望があります。
 全教は、この秋の確定闘争において、憲法と教育、国民のいのちと暮らしを守るたたかいと結合し、教職員賃金水準の確保と均等待遇の実現、地域格差拡大反対、教職員諸手当の見直し改悪反対、差別賃金制度の導入阻止のため、全力でたたかう決意を表明するものです。

                                               以上

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