『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【声明】『新採用者の分限免職処分を取り消した京都地裁判決を受けて』

2008年 2月29日 全日本教職員組合 中央執行委員会

 2月28日、京都地方裁判所(中村隆次裁判長)は、京都市教委が条件附採用期間終了時に元洛央小学校の高橋智和さんに下した分限免職処分を取り消す判決を言い渡しました。


 判決は、次のように述べています。
 「原告(高橋さん)の学級における学級崩壊の要因として、原告の指導が不適切であったことがその一因ではあった可能性はあるものの、…直ちに、原告の能力が欠如していると即断されるべきではない」「原告が新任教員であること、学校における新任教員への支援体制が必ずしも十分ではなかったこと、学級の児童に指導が難しい児童が複数おり、児童同士の関係にも難しい面があったこと、原告が保護者や児童の信頼を喪失するに至ったことには管理職らの対応等にも一因があったこと、…原告に簡単に矯正することのできない持続性を有する資質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障を生ずる高度の蓋然性があるともいえないというべきである」「本件処分の前提となる管理職等の評価が客観的に合理性を有するものかどうか疑わしいものであることを総合すれば、被告(京都市教委)の判断は客観的に合理性をもつものとして許容される限度を超えた不当なものであり、本件処分にはその裁量権の行使を誤った違法があるというべきである」
 
 このように今回の判決は、新採教員に対する管理職の指導上の問題を指摘し、睡眠時間が2~3時間しか取れないなど過酷な勤務実態の中で、うつ病に罹患した経過も解明しました。とりわけ、今の学校現場の困難な状況、新採教員の職務負担の過重性や学級崩壊など指導困難が誰にでも起こりかねない状況にあることが明らかにされた点は重要です。また分限免職の理由である「その職に必要な適格性を欠く場合」の解釈を最高裁判例に基づき判断し、市教委による「摘発と排除」の強引な処分を厳しく批判しました。教育基本法が改悪され、「競争と管理」を基調とする教育行政が強められるもとで、管理職も追い詰められ独断的学校運営やパワハラが目立ってきています。このような学校現場の歪みに対し、京都地裁は司法の立場から警鐘をならしたもので、極めて意義がある判決です。
 
 私たちは、「指導力不足教員」政策にかかわって、教員個人の問題に矮小化せず、教育条件改善と結んでとりくむことが重要だと主張してきました。文科省調査によっても、毎年新採者の退職者が増大しており、新採者の力量は、その学校の教職員集団の中でこそ育くまれるという点を押さえた研修体制の確立を求めるものです。
 またILO・ユネスコ『教員の地位勧告』は、「教職における雇用の安定と身分保障は、教員の利益にとっても不可欠であることはいうまでもなく、教育の利益のためにも不可欠なもの」(45項)と謳い、CEARTは文科省に対し、「指導力不足教員」を認定する際の「適正手続きが十分であるとは言えない」として是正を勧告しています。
 以上を踏まえて全教は、文部科学省及び各教育委員会に対し、次の諸点を申し入れることにしています。
 

                        記

 
1.条件附採用期間終了時の評価にあたっては、客観的で公正な評価を慎重に行い、恣意的主観的評価を厳に戒めること。
2.分限処分を検討する場合は、これまでの判例の到達点を十分踏まえるとともに、本人の弁明の機会の保障、同僚や弁護士の同席を認めるなど適正手続きを確保すること。
3.条件附採用期間終了時に、「依願退職」の名による、管理職等による退職の強要・パワハラを根絶すること。
4.初任者研修の負担の軽減に努めるとともに、新採者に対する必要な支援・条件整備を行うこと。                                
       

以上
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