『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

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【見解】『中央教育審議会「子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」答申について』

2008年 1月22日 全日本教職員組合 中央執行委員会

 中央教育審議会(中教審)は、1月17日に総会を開催し、「子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」答申(以下、「答申」)をまとめ、学習指導要領改訂にかかわる答申とともに、文部科学大臣に提出しました。


 政府・文部科学省は、この答申をうけ、1月18日から始まった169通常国会に、学校給食法および学校保健法等の一部改正案を提出するとされています。
 この「答申」にかかわって、全教は、11月19日に「審議経過報告」が出された段階での意見募集に対応し、12月18日付で文書による意見表明をおこなっています。今回の「答申」は、「審議経過報告」とほとんどかわらないものとなっていることから、基本的な見解は全教が提出した意見に譲りつつ、必要最小限の見解を表明するものです。
 
 第1は、「審議経過報告」同様に、教職員に過度な負担を強いるものとなっていることです。
 私たちは、「審議経過報告」に対する意見の中で、「『学校保健の充実』にかかわっては、『地域学校保健委員会』の設置、『食育の推進』にかかわっては、『地域食育推進委員会』の設置、そして『地域学校安全委員会』の設置と述べていますが、これこそ膨大な負担を学校と教職員に押しつけることになるのは、明らかではないでしょうか」と述べ、抜本的な見直しと学校の自主性尊重を強く求めました。
 このことをまったく無視することはできず、「答申」は、「子どもの健康・安全をとりまく状況は、学校種ごとに、また、地域ごとにその状況が異なることから、それぞれの状況に応じて取り組むことが必要である」という文言を付加したり、「地域学校安全委員会」にかかわっては、「地域で設置されている既存の会議(青少年の健全育成のための協議会等)に幅広い担当部局の参加を得て実施することも適当である」という文言を付加したりするなど、ごく一部の手直しをおこなっています。しかし、なお、依然として「地域学校保健委員会」の設置や「地域食育推進委員会」の設置は変更していません。これでは、学校と教職員は大きな負担を抱えざるをえません。
 
 第2は、教職員定数増や施設設備の改善をはじめとした教育条件整備についてほとんど言及されていないばかりか、「審議経過報告」からの後退さえ見られることです。
 「答申」は、養護教諭の複数配置にかかわる文脈で、「審議経過報告」では、「一人の養護教諭では」「十分な対応を図ることが困難」と記述していたものを、わざわざ「よりよい対応を図ることが困難」という表現に書き換えています。姑息な書き換えによって、複数配置の必要性についてトーンダウンさせることは、複数配置を求める現場の声に背を向けるものです。
 また、私たちは、保健室が狭いため、保健室で健康診断ができないという実態があることも具体的に示し、「答申」においても言及されている「保健室の施設設備の充実」について、アトピー性皮膚炎の子どもたちのための温水シャワーの設置など、具体的な改善策を強く求めてきました。しかし、「答申」では、「審議経過報告」と同様の表現にとどまっています。
 さらに、学校給食にかかわっては、「JAS法を改正し、企業に原産国表示を徹底させるとともに、トレーサビリティーの実施などを求める」という文言を挿入すべき、とすることを求めるとともに、「学校給食の民間委託をやめ、自校・直営方式に戻すとともに、給食調理員の正規雇用化をすすめる」という文言を挿入することを求めるなど、意見表明において、子どもたちにとって、安全で豊かな学校給食のための積極的な提案をおこなってきました。しかし、「答申」には、まったく反映されていません。
 「答申」が、条件整備抜きであることから、結局は現場への負担の増大を求めるものとなっているのです。
 
 第3は、学校運営組織に踏み込みすぎたものとなっていることです。
 私たちは、「審議経過報告」にかかわる意見で「教育内容や学校運営体制に踏み込むことなく、条件整備に徹するよう」強く求めました。しかし、「答申」においては、健康教育にかかわっては「学校保健委員会」、食育にかかわっては「食育推進委員会」、安全教育にかかわっては「学校安全委員会」の設置と述べています。
 これは、「審議経過報告」に対する意見でも述べたように、本来、学校がすすめるべき教育課程や学校がその実態に応じてつくりあげるべき学校運営体制に対する介入にほかなりません。
 
 第4は、「職務内容の明確化」によって、逆に、これまで自主的に発展させてきた職務の幅を狭めかねないものとなっていることです。
 養護教諭にかかわって「答申」は、「審議経過報告」に「学校教育法における養護教諭に関する規定を踏まえつつ、養護教諭を中核として、担任教諭等及び医療機関など学校内外の関係者と連携・協力しつつ、学校保健も重視した学校経営がなされることを担保するような」という文言を付加したうえで、「法制度の整備について検討」と述べています。私たちは、養護教諭が「つかさどる養護の中身は、子どもたちの実態によって規定されるものであり、これを法律によって細かく規定することは、かえって養護教諭の職務を狭めることになりかねません」と意見を述べましたが、「答申」は、これを省みず、逆に職務について細目を述べたうえで法制度を検討しているとしており、「審議経過報告」より後退しているといわなければなりません。
 また、栄養教諭についても、同様の立場から、「児童生徒の栄養の指導及び管理をつかさどる」としている学校教育法の規定をこえて、栄養教諭の職務を学校給食法に位置付けるべきではない、と意見表明をおこなってきましたが、「答申」は、「審議経過報告」と同様に「職務の明確化を図るための法制度の整備の検討」としており、これも大きな問題があります。
 
 以上のように、「答申」は、全体として、現場の要望にこたえないばかりか、かえって現場の負担を増やすものとなっています。また、意見募集をおこなったにもかかわらず、それをほとんど反映しないものとなっており、民主主義という観点からみても大きな問題をもつものです。
 法律改正がどのようなものとなるのか、現時点ではまだ不明確であり、法改正案が出された段階で、あらためて見解表明をおこなうことになりますが、上述した「答申」の持つ問題点をそのまま残した法改正案とならないことを強く求めるものです。

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