『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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オピニオン

【見解】『2008年度文部科学省概算要求に対する見解』

2007年 9月 4日 全日本教職員組合 中央執行委員会

 2008年度政府予算は、各省庁からの概算要求が8月31日に締め切られました。その総額は、一般会計が85兆71000億円(07年度当初予算比3・3%増)、そのうち一般歳出は50兆円強となっています。社会保障関連経費の2200億円抑制、公共事業費の3%削減などを求め47兆2800億円を上限とする財務省の概算要求基準に対し、約3兆円超となっています。


 文部科学省の概算要求は、一般会計で6兆39億円、07年度当初予算比で13・9%(7333億円)増となっています。その特徴は、「子どもに向き合う時間の確保」として3年間で2万1000人の定数増を求めていることです。このことは、私たちがとりくんできた「3000万署名運動」や「骨太の方針」・文科省予算概算要求に向けた署名、勤務実態調査などのとりくみが、教育3法案の国会審議でも与野党問わず「教職員定数増」「教育予算増」の意見や要望が語られるなど定数増の世論をつくりだして来たことの反映といえるものです。
 しかし、配置しようとしているその定数は、多くが主幹教諭など新たな職の設置のためのものであり、道徳教育の充実なども含め、改悪教育3法や教育再生会議第2次報告を具体化する予算要求となっており、多くの問題点も含んでいます。
 
 具体的には、以下のような問題点と特徴を持つものとなっています。
 その第1は、2万1000人の定数改善のうち、特別支援教育の充実(903人)や栄養教諭(157人)など、現場の要求に沿った定数改善を要求していることです。これらは、私たちの要求に沿ったものであり、評価できるものです。
 しかし、定数改善の半数以上をしめる主幹教諭のマネジメント機能の強化(3669人)や事務の共同実施を促進するための加配(485人)です。これらは、学校現場への管理統制を強化するためのものであり、容認することはできません。
 第2に、「小1プロブレム」や不登校、小学校高学年の時間軽減のための「外部人材の活用」(77億円)、地域住民の「ボランティア活用事業」の「事務の外部化」(205億円)などの予算を要求しています。また、養護教諭の未配置校などに退職養護教諭を「スクールヘルスリーダー」として配置する予算を要求しています。
 文科省が、さまざまな教育課題に対し人的配置が必要との認識を示したことは重要です。しかし、これらは、本来は定数増で行うべきところであり、非正規雇用で置き換えることは、安上がりの教育にしようとするものです。
 第3は、「教員の勤務実態をふまえ」るとして、不十分ながらも勤務実態調査を踏まえた教職調整額の見直しのための予算を要求しています。このことは、教職員の長時間過密労働に文科省も対応せざるを得なくなったことの現れであり、私たちの運動の成果といえるものです。
 しかし、基本的には「メリハリ」付けでの対応であり、教職員にいっそうの競争を強いる「給与体系」を策定するための予算を要求していることは、教職員の同僚性を破壊することにつながるものであり、学校教育にいっそうの困難をもたらすものです。
 第4に、「世界トップレベルの義務教育の質の保証」をかかげ、「学力テスト」の実施をはじめ、「国語力の育成、理数教育の充実」、「小学校における英語活動」「学校評価システムの構築」「教員免許更新制の円滑な実施」などの予算(400億円)を要求しています。
 とりわけ、「学力テスト」に関連しては、その結果を「活用」して「学校改善」するための事業として、350校を対象に「学校改善推進事業」を新規で行おうとしています。
 これらは、「学力テスト」と「学校評価」によって学校間競争をあおり、子どもたちにいっそうの競争の教育をもたらすものであり、断じて容認できるものではありません。そもそも教育の目的は、人格の完成にあるのであり、世界のトップであるかどうかが目標とされること自体が重大な誤りです。子どもたちに必要な「学力」を時の政府の都合で定め、学校と教職員を「学校評価」や「教職員評価」「免許更新制」でしばって子どもたちに押しつけることは許されるものではありません。
 第5に、「豊かな心の育成」として「心のノート」の改定などの「道徳教育の充実」(8億円)、高校生の「社会奉仕活動」推進など(35億円)等、改悪教育基本法や改悪学校教育法に盛り込まれた道徳教育や奉仕活動の強化のための予算が増額されています。
さらに、「キャリア教育・職業教育の推進」をかかげ、小学校から高校・専修学校まで系統的に職場体験学習などをすすめるための調査やプロジェクトをすすめようとしていることは、道徳教育の強化とあいまって、子どもたちに誤った労働観を植え付ける危険性を持つものです。
 第6に、学校の安全と安心にかかわっては、耐震調査の結果や中越沖地震での避難場所の指定を受けている学校が被害で使えなかったことなどを反映して、07年度予算の倍増となる2104億円の予算要求となっています。しかし、文科省の調査でも第2次診断が行われた公立の小中学校の建物のうち、大規模地震で倒壊の危険性が「高い」「ある」と診断された建物が1万6672棟もあり、第2次診断が行われていない建物の方が多いことを考慮すれば、今後さらに「高い」「ある」とされる建物が増えることが考えられます。
 第2次耐震診断を未実施の建物で実施するだけでも500億円以上必要なことが予測され、国が先頭に立って耐震診断・耐震改修を緊急に実施する必要があります。そうしたことがらの緊急性・重要性からみても極めて不十分な予算と言わなければなりません。
 第7に、国立大学法人の運営費交付金や私立大学の経常費補助金を増額していることは、評価できます。しかし、政府は「選択と集中」(「教育再生会議」第2次報告)の方針のもと「競争的資金の拡充」をかかげており、予算を梃子に大学運営を管理統制しようとすることは容認できません。
 第8に、私学助成金については、「骨太の方針2007」などの削減方針に反して、169億円の増額となっており、評価できるものです。公私負担の格差解消、中等教育や高等教育の無償化実現のために、いっそうの増額を求めるものです。
 第9に、日本学生支援機構奨学金事業については、215億円の増額となっていますが、8・7万人分の増加のうち8割以上が有利子奨学金の対象となっており、奨学金の拡充とはほど遠いものとなっています。
 その他にも、幼稚園にも「学校評価」を押しつけるためのモデル事業の導入、「家庭教育支援チーム」の創設、「学校支援地域本部」事業、「放課後子どもプランの拡充」など、国が幼児教育や家庭教育などにいっそう関与し、統制する方向性を示す予算要求ともなっており、そうしたことを許さないとりくみも重要となっています。
 
 今期の概算要求は、昨年度までとは異なり、「骨太の方針」や行革推進法の枠を越えて、定数増を含む7300億円の増額を求めています。しかし、財務省が示した原則3%削減の概算要求基準は閣議決定されており、行革推進法では、5年間で5%の定数削減もうたわれています。こうした状況から、私たちからすれば不十分な定数増に対しても削減の圧力が予想されます。
 一方、今回文科省が定数増の要求を行ったことは重要な一歩です。全教は、文科省が「新たな職」や「メリハリ」のための定数増ではなく、国の責任による30人学級の実現や教職員の長時間過密労働の解消のためのものに切り替えることを強く要求するものです。
 全教は、定数増の実現に向け、教育全国署名をはじめ諸要求実現の運動に全国の教職員・父母・地域住民の皆さんとともに全力を尽くして奮闘する決意を表明するものです。

                                              以上

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