『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

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オピニオン

【談話】『中教審「教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)」について』

2007年 8月31日 全日本教職員組合 教文局長 山口 隆

 8月31日、新聞各紙がいっせいに報道したように、中教審教育課程部会は、8月30日、2011年からの施行をめざした学習指導要領にむけての「検討素案」(以下、素案)をまとめました。この素案は3つの重大な問題点を持っています。

 素案は、「改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂」として、「各教科等の具体的な教育内容の改善については、教育基本法第2条(教育の目標)や学校教育法第21条(義務教育の目標)などの規定を踏まえて検討を行った」と述べています。
 
 このことからも明らかなように、第1の特徴は、改悪教育基本法、教育改悪3法の具体化そのものであるということです。現時点では、各教科の具体的な目標までは見えてきませんが、改悪教育基本法と改悪学校教育法が教育の目標としてかかげた「国を愛する態度」=「愛国心」や「規範意識」が強調されたものとなる危険性をもつものです。
 
 第2は、「教育再生会議」第2次報告をほぼそのまま受け入れたものとなっていることです。素案は、授業時数を約1割増加させるとしています。これ自体、「教育再生会議」第2次報告が提案していたものです。具体的には、小学校低学年で週2コマ、中高学年で週1コマ増やすとしています。これによって1人の子が卒業するまでに6年間で280コマ増えることになります。ところが、素案は「350単位時間を目途に増加させる必要がある」としており、そのためにこの授業時数増に加えて、「教科教育の一環としての朝の10分間を活用した読書活動、ドリル学習の活用」「1単位時間を変更したモジュール学習の活用」「長期休業日の短縮」と述べています。
 「教育再生会議」はまともな検証もせずに日本の子どもたちの学力が低下していると断定し、そのために、授業時数と学力との相関についての検証もおこなわずに、授業時数の1割増を提案していました。事実、PISAの学力調査で、学力「世界一」とされたフィンランドの授業時数は、現行学習指導要領にもとづく日本の授業時数よりも少ないことはよく知られており、授業時数を増やせば学力が向上するなどと単純に言えないことは明らかであり、むしろ、子どもたちの学習負担が増え、学習意欲を低下させる可能性も強く持っています。
 にもかかわらず、なんら教育学的検討も行わず、「教育再生会議」に無批判に追随して、こうした素案を出すことは、中教審としての見識を疑わせるものです。
 
 第3は、現行学習指導要領に対する反省がないということです。素案は、「総合的な学習の時間」の現行週3コマを1コマ削減する方向を示しています。現行学習指導要領では、教科の授業時数削減とあいまって、「総合的な学習の時間」が入れ込まれたために、現場では、この「時間」をどのように子どもたちの基礎学力を身につけさせるものにしていくか、ということも含め、相当の努力を払ってとりくみをすすめてきました。一体何のために学校で議論してきたのか、という怒りの声があがって当然です。また、素案は、教科の標準授業時数について「35の倍数にすることが望ましいと」これも他人事のように述べています。現行学習指導要領では、標準時数が35の倍数になっていないために、2種類・3種類の時間割をつくったり、学期ごとに時間割を変更したりするなど、これも相当の努力を払ってとりくんできました。このことに対する反省も一切ありません。「教育現場を振り回すのもいい加減にしてほしい」というのが率直な現場の声といわなければなりません。
 また、素案は、小学校での英語について、「高学年において一定の授業時数(週1コマ程度)を確保することを検討」しています。小学校の教員のかなりの部分は英語の免許を持っていません。にもかかわらず英語を教えよ、というのは、無免許での指導を奨励することです。文部科学省は、先の国会で教育職員免許法を改悪し、教員免許更新制を導入しました。この政策と素案はまったく矛盾するものです。
 
 このように、素案は重大な問題をもっており、素案の方向を抜本的に見直すことを強く求めます。私たちは、今後とも中教審教育課程部会の審議を注視しつつ、子どもたちが基礎的な学力を身につけることができる教育課程づくりのとりくみに全力をあげるものです。

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