『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

【特集】「せんせい」になったあなたへ2024

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【見解】『教育予算増額の世論に背を向け、教職員定数・賃金削減を強いる財政審による08年度予算編成についての建議を批判する』

2007年 6月12日 全日本教職員組合 中央執行委員会

(1)財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会は、6月6日「平成20年度予算編成の基本的考え方について」(以下、「建議」)をとりまとめ、尾身財務相に提出しました。
 「構造改革」路線を踏まえたこの「建議」は、当面の財政健全化の目標として、「2011年度のプライマリー・バランスの黒字化」を掲げた昨年の「骨太の方針2006」において示した公務員総人件費や社会保障関係費などの大幅な削減を「計画的に実施する」ことを当然のこととした上で、「この目標を2011年度に実現しても、それ以降にさらに社会保障のための歳出が増加し、再び収支が悪化しかねない」との認識を示しています。一方で軍事費を聖域化し、公共事業費についても維持しつつ、社会保障費や公務員総人件費のさらなる削減、文教関係予算の縮減を主導しようとする今回の「建議」は、「義務教育費のコストを縮減」し、消費税増税など国民生活に大きな負担を強いるものであり、厳しく抗議するものです。

(2)文教予算における第1の特徴は、その充実を求める世論と私たちの運動を無視することができず、「対GDP比が諸外国より低いこと」や「教員の勤務実態調査により、超過勤務が嵩んでいることが明らかとなった」こと、「教育の現場の環境には厳しい面があり、給与面での改善・厚遇、教職員数の増加等を求める声も強い」ことに触れざるをえなくなっていることです。こうした立場に立つなら、当然、文教予算の増額、教職員定数増が論じられるべきです。
 ところが、「建議」は「教育予算の対GDP比のみ」での「議論は適当ではない」として、①日本の租税負担率が諸外国に比べて低い、②政府の総支出に占める教育予算の割合がヨーロッパ諸国並み、③初等中等教育において1人当たりの予算額ではOECDの平均を上回っていることなどを踏まえて議論すべきとしています。また、1989年と比較して小中学校の生徒1人当たりの公教育支出は1・5倍、教職員数は1・3倍になっているにもかかわらず、「教育の問題はむしろ深刻化している」として「『はじめに増額ありきで』教育予算を増やしても必ずしも教育がよくならない」として、「メリハリ付けを徹底し、助成・配分方式を見直すこと」としています。
 さらに、教職員定数については、「行政改革推進法」に従って、「児童・生徒の減少に見合う数を上回る純減を実現」することを強く求め、教職員給与については、平均で2・7%の縮減を「ネットで確実に」実施するとしています。
 
(3)第2に、学校規模の適正化の名の下に、学校統廃合の推進が初めて明記されました。学校を統廃合するかどうかは、子どもの教育権の保障という立場から、その学校にかかわる子ども・父母・住民・教職員の合意のもとに行われるべきであり、財政の「効率化」の観点から押しつけるべきではありません。「建議」では、「ここ30年間で子どもの数は約4割減少したにもかかわらず、公立小中学校の学校数は数パーセントしか減って」いないと指摘し、「非効率」であると述べていますが、地方財政に厳しい面がある中でも公立小中学校数が維持されていることにこそ、子どもの安全・安心の問題も含めた父母・住民の意思が反映されているとみるべきです。
 
(4)第3に、総じて、「建議」は文教予算の高コスト論の立場に立っており、現状を「既に量的には十分な投資を行っている」として、「効率化」を徹底することを求めています。「機械的・一律的に配分される傾向が強い人件費、機関助成については縮減」「その配分方法を成果や努力をより反映したもの」とし、「教育再生に資するさまざまな取り組みに予算をシフトする」との方針を示し、その具体化として、「教員給与、国立大学法人運営費交付金、私学助成のスリム化と配分方法の大胆な見直しを行」い、「そこで生じた財源を教育の質の向上、教育再生に資する予算にシフトさせ、メリハリ付けをいっそう強化していく」としています。
 このように基盤的経費ではなく政策的経費に予算の軸足を移すことは、全国一斉学力調査の実施などにみられるように、予算を通じての教育への国家統制を強めることであり、教育基本法の改悪や教育改悪3法を財政的に裏付けるものです。しかも、「教育予算の増額のみが追求されれば、結局子どもたちにとっては、背負わされる借金が増えるだけの結果」になるとしていることは、ゆきとどいた教育を求める国民世論に対しての恫喝ともいえ、絶対に認めることはできません。
 
(5)「教育の重要性は誰もが認める」としながら文教予算の縮減をめざす「建議」のこうした立場は、父母・国民の教育への願いとまったくかけ離れたものです。教育改悪3法を審議している国会論戦をとおしても、審議すればするほど、与野党を問わず教育予算を増額することや教職員定数を増やす必要があることが、当然の前提として議論されています。伊吹文科大臣も「必要な予算措置と人員措置を講じなければ私はやはりだめだと思」うと答弁し、予算増と教職員定数増が課題であることを認めざるをえない状況です。
 文科省が昨年40年ぶりに実施した「教員勤務実態調査」の結果も、教職員の異常な長時間過密労働の実態を明らかにしており、教職員定数増なしに教育条件を改善していくことはできません。全教の試算では、時間外手当に換算すれば約1兆円、教職員定数としては約17万人の増員が必要です。歯止めのない教職員の長時間過密労働を解消するためにも、教職員定数増を基本としながら、計測可能な超過勤務に対しては労基法37条にもとづく時間外手当を支給すべきです。
 
(6)財務省は、各省庁から8月を目途に来年度予算概算要求のとりまとめに入ります。私たちの改悪教育基本法・教育改悪3法に反対するこの間のたたかいや、どの子にもゆきとどいた教育を求めてとりくまれてきた3000万署名運動などが、政府を追いつめるとともに、少なくとも文科省自身を文教予算と教職員定数を増やす立場に立たせてきたといえます。
 さまざまな教育困難を父母・国民とともに乗り越えていくためには、教育予算全体の拡充が必要なことは明らかです。そのために、文科省が概算要求をまとめる時期に向けて、現在とりくんでいる署名を学校職場に働くすべての教職員に対して急速に広げるとともに、文科省が国会答弁で明らかにした教育予算増額の方針をけっして空手形に終わらせることのないようにさせなければなりません。全教は、今後、来年度政府予算案に教育予算全体の拡充を具体化させるため、教育全国署名をはじめとする秋のとりくみに、全力をあげるものです。
 
 

以上
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