『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【声明】『「指導力不足教員」政策と新教職員評価問題に係わるILO・ユネスコからの調査団の派遣を歓迎する』

2007年 5月29日 全日本教職員組合 中央執行委員会

1.全日本教職員組合(以下、全教)はILOから、ILO・ユネスコ「共同専門化委員会(CEART)」(『教員の地位に関する勧告』(1966年制定)の適用を監視し促進する機構)が、日本へ調査団を派遣する用意があるとの5月28日付の通知と、そのことを決めた共同専門家委員会の第9回通常総会(06年10月30日~11月3日)の報告(注1)を受け取りました。
 全教は、ILO・ユネスコが「指導力不足教員」政策と新しい教員評価制度に関して調査団(ミッション)の派遣を決めたことを歓迎するとともに、文部科学省が受け入れを決断したことを評価するものです。これは、ILOが1965年に公務員の労働基本権問題に関して調査団を派遣(委員長エリック・ドライヤー、1月10日~2月6日)して以来42年ぶりの歴史的な出来事で、問題解決に向けたILO・ユネスコの誠実で意欲的な姿勢を高く評価するものです。

2.全教は2002年6月28日に「申し立て」(ALLEGATION)を行ないましたが、それを受けた第8回共同専門家委員会の勧告(2004年1月26日に受理)において、ILO・ユネスコは「善意と適切な対話をもって、主要な『勧告』不遵守の問題が解決されるならば、他の点についての争いも緩和され、全教と関係する行政機関との関係の残念な悪化と思われる問題も回復されうる」(32項)と、文科省と全教の建設的な対話を求めました。
 そして問題が解決しない場合に、「適切な事実調査団の派遣」(7項)「専門的な助言」(32項)などを考慮するとしていましたが、これに対し全教は、文科省が「指導力不足教員」問題、新しい教員の評価制度の双方について、「改善を可能な限り公正かつ透明性の高いものにするため、あらゆる努力を惜しまないものである」と表明していたことに留意し、「これを契機に文部科学省と全教が、誠実で意味のある協議・交渉を行えば、ILO・ユネスコの力を借りなくとも、自主的に解決できる」との見解を出しました。
 
3.「今後の展開についての情報を常に提供するよう」求めた勧告に従い、全教は2005年1月17日に共同専門家委員会へ「追加情報」を提出し、2006年1月16日に「中間報告」を受け取りました。そして、2006年4月27日の「追加情報」の中で、「私たちは、共同専門家委員会勧告と中間報告を力に『教員の地位勧告』を日本の教育行政に活かすとりくみを強化してきましたが、今年の9月には第9回共同専門家委員会の会議が予定されているにもかかわらず、文科省は、ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』を尊重する政策転換を行っていません。そのため、各教育委員会における見直しは遅々とした歩みで、初歩的部分的改善にとどまっています」と指摘し、日本政府・文部科学省に対する是正に向けた働きかけを引き続き要請(注2)しました。
 加えて、「制度の見直し改善に向けて、全教としてILO・ユネスコの専門的助言を得たいので、調査団の派遣を検討されることを要請」しました。
 全教のILO要請団は06年8月23日に、教育セクターのビル・ラットリ-氏と交流・懇談を行いましたが、「ILOからの調査団の派遣は、日本政府の反応如何である。当事者の話し合いを成功させるための手続きで、合意が前提」との説明を受けました。私たちは、文科省が調査団を受け入れることを想定できなかったので、調査団の派遣は不可能と考えていました。私たちは、ILOから送付された文書に記述された「必要とされる事後措置(フォローアップ)」に注目してきましたが、今回、ILO・ユネスコが調査団の派遣をきめ、問題解決に向け積極的行動に踏み出したことに敬意を表するものです。ILO側「時間がかかっても解決するまであきらめない」と表明したことを想起するとともに、実りある成果が生まれるよう全力でとりくむものです。
 
4.調査団(ミッション)の意味は、使命を与えられた使節団であり、勧告は調査団派遣の目的として、「日本政府と全教によって求められた状況の調査をし、これまで位置づけられている問題の解決のための提案をすべての当事者に行う」ことをあげています。調査団は白紙状態から作業を行うのではなく、「教員の地位勧告」の原則とすでに共同専門家委員会が勧告した内容を基準(モノサシ)として、調査・検証・専門的助言などの活動を行うものと考えられます。
 ILOは、立場の違う者、考えの異なる者が話し合い、交流する「社会的対話」が、問題解決の鍵と考えています。全教は、ILO・ユネスコ調査団の派遣が有意義な内容となるよう、次の要望を共同専門家委員会と文部科学省へ申し入れるものです。
 
① 文部科学省及び各教育委員会・教職員組合からの調査(ヒアリング)は、対応する教育行政代表と教職員組合代表が同席した(文部科学省と教職員組合の中央組織、都道府県教育委員会と当該の教職員組合地方組織)、公聴会方式を基本とすること。
② 開催場所、調査対象については、全教の「申し立て」「追加情報」の内容を踏まえ、下記の場所を考慮すること。
東京都内 <文科省、東京都教育委員会>、
大阪市または京都市<大阪府教育委員会、京都市教育委員会>、
高松市 <香川県教育委員会、高知県教育委員会、岡山県教育委員会>、
仙台市 (宮城県教育委員会、山形県教育委員会)
③ 訪問時期は、本年10月を目途とすること。
④ 共同専門家委員会は、日本における「指導力不足教員」の人事管理と教職員評価制度について、「教員の地位勧告」の水準を満たす改善方向を具体的専門的に助言すること。
⑤ グローバル化する世界の教職員をめぐる動向と共同専門家委員会の問題意識・とりくみをブリーフィングする機会を設けること。
 
5.「指導力不足教員」政策および新しい教員評価制度は、新たな重大な状況の変化に直面しています。「指導力不足教員」認定・研修制度の扱いは地方教育委員会に任されていましたが、「指導が不適切な教員の人事管理の厳格化」として法的根拠を与える教育公務員特例法の「改正案」が国会で審議されています。また、「給与構造の改革」で打ち出された、査定昇給や勤勉手当の成績率に評価結果を反映することが本格化します。私たちは、文科省や教育委員会の部分的改善であっても評価してきましたが(最近では、文部科学省が各都道府県教育委員会の「指導力不足教員」認定制度の実態調査様式を改善したことを評価)、見直しは全体として進んでいません。その弊害は深刻であり、国際的な標準である「教員の地位勧告」と共同専門家委員会(CEART)勧告が遵守されていない部分の速やかで抜本的な改善が求められていると考えます。
 「指導力不足教員」の人事管理システム及び教職員評価制度について、日教組など各教職員組合は、様々な見解・方針を持っています。しかし、現場の実態や教職員の要求に照らせば、制度の客観性・公平性・透明性という点では一致できると考えます。全教は、「共同専門家委員会(CEART)勧告は、日本の教職員組合運動の共有の財産」との見解を出しており、調査団の派遣が成功するよう、他の教職員組合と協力の努力を約束するものです。
 全教はまたとない機会を生かし、さらに「教員の地位勧告」、共同専門家委員会(CEART)勧告の学習・普及を強め、客観性、公平性、透明性が欠如した、競争的管理的な教職員賃金・人事政策の是正をめざし奮闘するものです。            
 
(注1)報告の勧告部分は、次の通りです。 
「20. 共同委員会は、共同委員会の調査団(ミッション)が日本を訪問し、実情を検証するという提案に関して、文科省が全教と同じ立場をとっているものと理解した。文科省は、その報告の中で、『指導力不足教員の評価や教員評価制度においてとろうとしている一連の措置について、CEARTが、日本の各教育委員会と直接会談をおこなうことを、文科省は望んでいる』との意見を表明した。同省はまた、そのような会談をおこなう中で、すべての教職員団体とも、問題となっている事案に関するそれぞれの立場について聴取するための会談をおこなうよう強く主張した。
 
21. 共同委員会は、ILO理事会とユネスコ執行委員会が以下のことをおこなうよう勧告する。
(a) 上述された状況に留意すること
(b) 日本政府が、全教と協議を始め、共同委員会報告について各県当局に通知し、上述されたように積極的な招請を行うという、これまで採ってきた積極的な措置について、共同委員会が、評価していることを日本政府に伝えること
(c) 共同委員会事務局の協力を得て、日本政府と全教によって求められた状況の調査をし、これまで位置づけられている問題の解決のための提案をすべての当事者に行うために、調査団(ミッション)を日本に派遣するという共同委員会の意向に留意すること。」
 
(注2)要請の内容 
① 文部科学省が、CEART勧告に基づき、「教員の地位勧告」(1966年、1997年)を尊重して、教育行政をすすめること。
② 「指導力不足教員」制度の全国の実態調査を分析し、「教員の地位勧告」「CEART勧告」に沿った、見直し改善のガイダンスを都道府県教育委員会・政令市教育委員会に示すこと。
③ 「新たな教員評価制度の導入と実施」に関して、「教員の地位勧告」「CEART勧告」が求める水準の客観性、透明性、公正を確保するガイダンスを示すこと。労使交渉抜きで、評価結果と賃金・処遇との連動を行わないこと。
④ 03年CEART勧告、05年『中間報告』の内容を文科省が各地方教育委員会に伝達し、尊重すべきことを明らかにするとともに、制度の見直し改善に向けて、各地で関係する教職員組合との建設的な交渉・協議がもたれること。

                                              以上

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