『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年4月号 3月20日発行〉

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【見解】『教員の勤務実態に見合う定数改善と適正な賃金水準の確保を――中教審答申「今後の教員給与の在り方について」の見解――』

2007年 3月30日 全日本教職員組合中央執行委員会

1.中央教育審議会は3月29日の総会で、「今後の教員給与の在り方について」を答申しました。その内容は、教職員給与の在り方を検討していたワーキンググループ(以下、WG)がまとめた「審議経過報告」(1月30日)を基本的に踏襲しており、私たちが「経過報告を批判する見解」(1月30日)の中で要求していた「教員勤務実態調査に示された時間外勤務実態に見合う総人件費を確保し、教職員定数増と賃金水準維持を基本とした実効ある超勤是正策」は盛り込まれませんでした。しかも、「副校長、主幹等の新設」を求めた教育再生会議第1次報告を受けて、「副校長(仮称)」の記述などで若干の手直しが行われ、メリハリと称する差別的な処遇が補強された、極めて問題点の多い答申となっています。
 今後、文部科学省において、行革推進法で定められた2008年度からの教員給与制度改変に向けて、この答申を踏まえた検討・具体化作業が進められることになります。
 
2.文科省は、今回の教員給与の検討に際して、40年ぶりに「教員の勤務実態調査」を実施しました。06年7月から11月までの小中学校分暫定集計が発表されていますが、1カ月平均の残業時間は約40時間(持帰り除く)で66年の調査(注)と比べても大幅に増加しており、学校職場の深刻な長時間過密労働を告発する貴重な資料となっています。
(注)<超過勤務時間>1週間平均・小学校1時間20分・中学校2時間30分・平均1時間48分 
 これまで文科省は、勤務実態調査を拒み、校長が命じた時間外勤務はないとの立場をとってきました。そして時間外勤務問題は、「仕事の効率化・改善を校長や服務監督権限のある教育委員会が考えるべき」と回答するにとどまり、定数増など実効ある是正策を講じてきませんでした。
 今回、中教審が答申において、「学校の管理運営や外部対応に関わる業務が増えてきており、結果として、教員に子どもたちの指導の時間の余裕がなく」「休憩・休息時間が、子どもたちへの指導等があるため、結果として十分に取れていない」と分析し、「教員が子どもたちの指導により専念できるような環境を整備していくことが必要である」と〝診断〟したことは画期的なことで、教職員の認識・要求と一致するものです。また「恒常的な時間外勤務の実態」と断定しましたが、会計検査院の専門調査官は、「限定4項目に該当しない時間外手当等勤務が常態化しているとしたら、その事態は違法な状態であると考えざるをえない」(「月刊高校教育」05年4月号)と指摘しており、違法な実態は、速やかに解消されなければなりません。
 
3.肝心なことは、〝診断〟に基づき、適切な〝処方箋〟を提示し、それを実行に移すことです。しかしながら検討は、「骨太の方針06」<①教職員定数の1万人程度の純減②人材確保法に基づく優遇措置を縮減(2・76%削減で財務省と文科省が合意)>の枠内で行われてきたため、答申は、教職員定数増と賃金水準維持を基本とした実効ある〝処方箋〟とはなっていません。
 人材確保法の廃止圧力が強まるもとで、「教員の大量退職時代を迎え、…人材確保法の意義はますます重要」と見解を述べたことは首肯できますが、「2・76%は縮減を図りつつ…教員給与の優遇措置についてその基本を維持しながら」と内容を薄めて骨抜きを行っています。私たちは、教員勤務実態調査に見合う賃金水準の確保を繰り返し要請してきましたが、その反映として「今後、教員勤務実態調査の結果等も踏まえて、平成20年度予算において政府が真摯に対応することを要請」としたことに留意するものです。しかしながら、賃金原資総額の削減を容認した上で、メリハリを付ける方向で教員給与を見直すことが基調となっており、容認することはできません。
 さらに、教職員定数の改善には言及せず、「教頭の複数配置の促進」「副校長(仮称)」「主幹(仮称)」「指導教諭(仮称)」などの新設で中間管理職を増やすことを求めています。また、事務の共同実施の促進、共同実施組織に事務長(仮称)の設置、アウトソーシングなどを奨励しています。これでは、一般教職員の持ち時間数や負担が増え、かえって多忙化・健康破壊に拍車をかけることになるのではないでしょうか。このような教職員配置の誤った〝処方箋〟は、断じて許すことはできません。
 
4.教員給与の「メリハリ」と称する差別賃金は、3つの分野で、具体化が検討されています。
 第1は、新教職員評価による賃金リンクで、「給与構造改革」に盛り込まれた査定昇給、勤勉手当の成績率など「成績主義賃金」の導入・強化が求められています。答申は、「適切な教員評価の構築に取り組み、指導力や勤務実績に優れた教員を適切に評価できるようにし、その実施状況を踏まえつつ、評価結果を任用や給与上の措置など処遇に適切に反映していくことが必要である」と述べています。
 第2は、「職務に応じてメリハリを付けた教員給与にしていく」として、「都道府県において、必要に応じて、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)の職務に対応した新たな級を創設することが望ましい」と答申しています。現行の4級制を細分化するものですが、賃金原資が制約された条件では、級が増えることは下位級の水準を引き下げる「上厚下薄」の結果をもたらします。
 第3は、一律4%支給されている教職調整額制度については廃止して、「職務負荷」などで支給率にメリハリを付けて支給することが、今後、具体的に検討されることになっています。
 新設が予定される「副校長」「主幹」「指導教諭」(仮称)の賃金は一定改善されるかもしれませんが、多数の教員は、現行より賃金が引き下げられることになります。現に、廃止・縮減を検討する諸手当として、義務教育等教員特別手当、特殊教育関係者に支給される給料の調整額、多学年学級担当手当、教育業務連絡指導手当(主任手当)、へき地手当などが羅列されており、この削減で捻出される原資が、管理職手当の増額や「主幹」など中間管理職に見合う級の増設にまわされることになるのではないでしょうか。
 しかも、メリハリをつけるための評価が、改悪教育基本法のもとでは、政府が決めた「教育振興基本計画」に忠実かどうかが行政によって評価されることになる恐れがあります。また答申は、「個々の教員だけではなくチームワークによって子どもたちへの教育を行っている意識が強いため、そのような学校現場の特殊性を考慮した評価の在り方」を検討すると記述していますが、「第三者機関による学校評価」と結んで連帯責任が強調されると、教職員の協力・協同がゆがめられることにならないでしょうか。
 
5.マスコミは「焦点となっていた残業手当の導入については結論を出さず、文部科学省内での検討にゆだねる。文科省は今夏の概算要求までに詳細を詰める方針だ」(「朝日」)と報じています。
 答申では、「1日あたりの平均残業時間が5時間以上の者がいる一方で、0分の者もいる」として、過労死ラインの長時間勤務の解消は棚にあげられ、教員間のバラツキが強調されました。その結果、「教員に一律支給されている教職調整額の在り方について見直しを行う必要がある」と判断し、「職務負荷で支給率にメリハリを付けて支給する」「時間外勤務手当を支給する」「教員勤務実態調査の結果を反映した支給率とする」などの意見を並列で紹介し、引き続き検討することになりました。しかしながら、WGにおける議論の大勢は、「職務負荷で支給率にメリハリを付けて支給する」方向であったと言われています。
 教職調整額制度は2段階で見直し、第1段階は、教職調整額の本俸扱いを止め、一時金や退職手当等の算定基礎から外して水準を引き下げる、第2段階は、一律支給を見直し、メリハリを付けて支給を行う、となっています。例えば、教職特別手当(仮称)を新設し、各教員の職務負荷を管理職が評価して、標準者は4%支給、負荷が重い(時間外労働が多い)者は6%支給、負荷が軽い(時間外労働が少ない)者は2%支給、「指導力不足」教員の研修受講中の者や休職中の者には支給しない(0%)、など現行より改悪するというものです。
 文科省が勤務実態調査を実施したことは、勤務時間が測定できる証左であり、勤務に応じてメリハリを付けるというのならば、時間外勤務実績による残業手当を支給することが筋ではないでしょうか。文科省調査の結果に基づき労基法37条による時間外手当を算出すると、持帰り時間を除いても平均給与ベースで年間約100万円(小学校88万円、中学校120万円)になります(注)。ちもちろん、WGの資料も「課題」で指摘しているように、「勤務実態調査の結果を踏まえた予算の確保が必要」だということは言うまでもありません。
(注)平均給与ベースの教職調整額は年間で23万5597円です。(文科省資料) 
 
6.時間外勤務を解消するために、「新たな選択肢の一つとして…1年間を通じて平均すれば1週間あたり40時間労働となることが可能となるよう、1年間の変形労働時間制を導入」 するとの意見が出されましたが、「教員勤務実態調査の最終報告の結果も鑑みながら、今後更に専門的・技術的な検討を進めていくことが必要」と述べています。
 変形労働時間制は、生活のリズムも乱れ、肉体的にも精神的にも負担が過重となるため、労働基準法でも、原則禁止となっているものです。学校職場では過労死やメンタルヘルスが重大な課題となっており、導入を認めることはできません。
 
7.文科省が実施した「教員意識調査」(中間報告)によれば、「忙しさや負担感を解消するために必要なこと」との設問に対し、教諭の場合、「クラスサイズを小さく、教員を増員」が80・0%でトップ、「事務職員ら増やし、子どもの指導に特化」47・3%、「調査など精選し、業務を合理化」31・9%と続いています。このように、少人数学級の実現、教職員定数増が、学校現場からの切実な願いです。「教員養成学部の志願倍率が低下」の見出しで、「『いじめ』『ダメ教師』…逆風嫌気?」「質の低下懸念」(「東京新聞」2月19日付)との報道もあります。
 「優秀な人材を教員として確保していくかを国策として位置付けていくことが必要」と力説するならば、「骨太の方針2006」の「教職員の1万人純減」は少なくとも撤廃すべきです。そして、私たちも「安心して教育活動に取り組むことができるようにすることが必要」であると考えており、教員勤務実態調査に見合う定数増と賃金水準を確保する施策を、政府・文部科学省に対し強く要求するものです。

                                              以上

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